【初心者必見】コインチェックでビットコインを始める全手順!画像で解説&失敗しないコツ
PR

革命物語:ビットコインが生まれるまでの知られざる歴史

この記事は約30分で読めます。
記事内に広告が含まれています。

いま、あなたが使っているお金は、誰が発行し、誰が管理しているか知っていますか?

 

多くの人が疑問にすら思わないこの問いに、20年以上も前から挑み続け、「自由で止められない通貨」を生み出そうとしてきた人たちがいます。

その集大成が、ビットコイン。

 

これは単なる「投資商品」や「値動きの激しいデジタルマネー」ではありません。

 

ビットコインの誕生には、政府や銀行に依存しない、お金の新しい未来をつくろうとした人類の【革命の物語】があるのです。

スポンサーリンク

サイファーパンクの誕生:暗号を武器に自由を求めた者たち

物語は1990年代初頭にさかのぼります。

 

1992年、「サイファーパンク(Cypherpunk)」と呼ばれる、暗号学者、プログラマー、活動家、リバタリアンなど、多様なバックグラウンドを持つ人々が集うメーリングリスト(グループ)が生まれました。

※サイファーパンク:「暗号技術(Cypher)」と、反体制的な思想を持つ若者を描いたSFジャンル「サイバーパンク(Cyberpunk)」を組み合わせた造語

 

↓サイファーパンクの創設者たち

  • ジョン・ギルモア:アメリカのプログラマー。政府によるインターネットや通信の監視、暗号技術の規制に強く反対。
  • ティモシー・C・メイ:アメリカのコンピューター科学者で、元Intelのチーフサイエンティスト。『クリプト・アナーキー・マニフェスト』の著者。このマニフェストでは、ビットコインのような匿名のP2Pのデジタル通貨の出現、匿名メールシステム、オンライン上の自由な情報交換などをすでに予見していた。
  • エリック・ヒューズ:アメリカのプログラマー、暗号学者。『サイファーパンク宣言』の著者。

 

彼らは、インターネットの普及とともに、私たちの情報が政府や大企業によって簡単に監視・管理されるようになる未来を危惧していました。

 

彼らの信念は、「プライバシーは与えられるものではなく、自ら勝ち取り、守るべきものだ」というもの。そして、その武器こそが「暗号技術」でした。

 

1993年、エリック・ヒューズは「サイファーパンク宣言」を発表し、「我々はソフトウェアを書く」と高らかに宣言しました。彼らは、法律や規制ではなく、「コードこそ法(Code is Law)」として機能するシステムこそが、真の自由をもたらすと信じたのです。

↓主な思想と目標

  1. プライバシーは不可欠である
    • デジタル時代において、政府や企業、その他「顔の見えない大きな組織」が個人のプライバシーを与えてくれるとは期待できない。
    • プライバシーは誰かに与えられるものではなく、個人が自ら勝ち取り、守るべき権利である。
  2. 暗号技術がプライバシーを守る
    • プライバシーを守る最も効果的な手段は、強力な暗号技術である。通信、取引、データ保存など、あらゆるデジタル活動において暗号化が必須。
    • 「プライバシーを擁護するためには、誰かがソフトウェアを書かなければならない。我々はソフトウェアを書く」単に議論するだけでなく、実際にコードを書いてツールを開発する実践的な姿勢を示した。
  3. 匿名性と検閲耐性
    • 暗号技術によって、個人はインターネット上で匿名で活動し、政府や企業の監視、検閲から逃れることができるべきだ。
    • 特に、金融取引における匿名性は、個人の自由な経済活動にとって重要である。
  4. 非中央集権的なシステム
    • 中央集権的な権力(政府や銀行など)が情報をコントロールするのではなく、個人が自律的にシステムを管理・運用できる分散型の仕組みを追求。
    • 「コードこそ法(Code is Law)」という思想は、人間の法律や制度ではなく、数学的なアルゴリズムとコードのルールによってシステムが自動的に機能し、信頼が不要な(トラストレスな)環境を構築することを目指した。

 

↓サイファーパンクの主要人物

  • デヴィッド・チャウム:匿名電子キャッシュeCashの考案者。ブラインド署名の発明者。
  • アダム・バック:プルーフ・オブ・ワークの概念の元となるHashcashの考案者。Blockstream CEO。
  • ニック・サボ:Bit Gold(ビットコインの直接的な先駆け)とスマートコントラクトの概念の考案者。
  • ウェイ・ダイ:b-moneyの考案者。
  • ハル・フィニー:PGP(暗号ソフトウェア)の開発者の一人。サトシ・ナカモトからの、初めてのビットコイン取引(受取)を行った人。
  • ジュリアン・アサンジ:WikiLeaks(政府や企業の機密文書を匿名で受け取り、公に暴露する非営利の国際組織)の創設者。
  • ティモシー・C・メイ:「クリプト・アナーキー・マニフェスト」の著者。
  • エリック・ヒューズ:「サイファーパンク宣言」の著者。

なぜプライバシーは大切なのか?

「プライバシーなんて、やましいことがなければ必要ないんじゃない?」

そう思う方もいるかもしれません。

 

しかし、サイファーパンクたちは、プライバシーを「秘密」とは区別しました。彼らにとってプライバシーとは「自らの情報をどこまで開示するか、自分で選択できる力」でした。

プライバシーが侵害された場合のデメリット

1. 差別や偏見の温床になる

病歴、政治的信条、性的指向、人種などのデリケートな個人情報が漏洩することで、雇用、住宅、教育、医療といった様々な場面で差別や偏見にさらされるリスクがある。

例えば、健康診断データの漏洩により、保険加入や就職で不利益を被ることも。

 

2. 権力による監視と自己検閲の強化

政府の監視が強まると、人々は自由にモノを言えなくなる。

たとえば中国では、SNS上の発言が「不適切」と判断されると信用スコアが下がり、公共交通(高速鉄道や航空機)や住宅の利用が制限されるケースがある(社会信用スコア制度)。

日本でも、SNSの発言で内定取り消しになった例は増えている。

 

3. 詐欺やなりすましのリスク

名前、住所、口座番号、誕生日などが漏洩すると、簡単に成りすましやフィッシング被害に遭ってしまう。

実際、日本のフリマアプリやECサイトでは、個人情報を利用した不正ログイン→勝手に購入→口座から引き落としの被害が多発。

 

4. 金銭管理まで把握され、行動が制限される可能性

キャッシュレス決済の利用履歴や送金データがすべて政府や企業に筒抜けだと、支出の傾向から「信用できない人」と見なされ、住宅ローンの審査に落ちるなどの例も懸念されている。

 

5. 個人の“輪郭”が勝手に作られてしまう

ビッグデータやAIによって、あなたの「性格」や「思想」が勝手に分析され、オススメ情報や広告、ニュースが最適化されてしまう。

自分の視野が気づかないうちに狭まり、情報の偏り(フィルターバブル)に閉じ込められる危険がある。

 

フィルターバブル:「知らず知らずのうちに行動がコントロールされる」現象が起きる理由

  1. 同じような情報しか見なくなる
    • SNSや検索エンジンが、過去の「いいね」や検索履歴に基づいて“あなた向け”の情報だけを表示。
    • すると、自分の考えや信じていることが、正しいと思い込みやすくなる(エコーチェンバー効果)。
  2. 異なる意見や視点をシャットアウト
    • 自分と違う考えの人や、社会の裏側で起きていることが目に入りにくくなる。
    • それにより、「知らなかったから考えなかった」ことが増えていく。
  3. 選択や判断が「誘導」されていく
    • 商品の購入、投票、政治的な意見など、あたかも自分で決めたつもりでも、実はアルゴリズムに最適化された情報だけを見て判断している状態になる。

↓実際に起きている例

  • 2016年のアメリカ大統領選で、Facebookを通じて特定の情報を流された人たちの間で、有権者の投票行動が変化したという調査報告があった(ケンブリッジ・アナリティカ事件)。
  • 旅行サイトや通販アプリで、「人気」と表示されるものに、無意識に偏った選択をしてしまうのもその一例。

逆に、プライバシーが完全に守られることで起こる弊害はあるか?

1. 犯罪の温床になりうる

暗号化された通信や匿名性の高い通貨(例:Moneroなど)が違法薬物の取引、マネーロンダリング、テロ資金供与などに悪用されるリスクがある。

例:Torネットワークやダークウェブでは、プライバシー技術が使われて違法取引が行われているケースも報告されている。

 

2. 社会的な透明性の低下

政治家や公務員、企業の幹部などが「プライバシー」を盾に説明責任を回避したり、都合の悪い情報を隠したりする恐れもある。

例:税金の使い道や、企業の不正、パワハラの隠蔽などが起きやすくなる。

 

3. テクノロジー企業の進化の妨げになる場合も

利用者の行動データが十分に収集できないと、サービス改善・パーソナライズが困難になるという面もある。

例:「あなたへのおすすめ」が精度低下、悪質ユーザーへの対策が遅れるなど。

 

4. 医療や研究への協力が難しくなる

個人情報を厳しく守りすぎると、疫学調査やAIによる診断支援の研究などが非効率になることがある。

例:コロナ感染経路の追跡や医療ビッグデータ活用の際、「プライバシー保護の壁」が課題となった。

サイファーパンクの思想がプライバシー論の核心を突く

サイファーパンクは、プライバシーを「選ぶ権利」だと定義しています。

プライバシーとは、情報を「見せないこと」ではなく、「誰に、どこまで、いつ、どうやって見せるかを決める自由」のこと

自分の情報を提供するかを、個人がコントロールできるべきだという考え方です。

 

よく「何もやましいことをしてないなら監視されてもいいだろ」と言う人がいますが、これは裏を返せば「あなたには自分の情報をコントロールする権利がない」と言っているのと同じ。

 

サイファーパンクたちが訴えたように、プライバシーとは、あなたが「自分らしくあること」を可能にする自由の土台なのです。

誰かに見られている、誰かにコントロールされていると感じる生活では、私たちは真の意味で自由に思考し、行動することはできません。

自分の情報に対する決定権を持つこと。これこそが、私たちがデジタル時代に人間としての尊厳を保ち、安心して自由に生きるための、最も基本的な権利であり、サイファーパンクの思想が現代に問いかける核心なのです。

サイファーパンクとアノニマスは何が違うのか?

「サイファーパンク」と「アノニマス」。

どちらもインターネット時代に現れた“反体制的”な存在として語られることが多いですが、その目的や行動スタイルは大きく異なります。

アノニマス:匿名で不正に抗議するハクティビスト集団

アノニマスは「匿名」を意味する名の通り、特定のリーダーや固定メンバーが存在しない、非常に分散的で流動的な国際的ハッカー集団です。彼らの活動は、主に2000年代半ばから活発化しました。

アノニマスの主な目的は、政府や企業の腐敗、検閲、人権侵害といった社会的な不正に対し、抗議行動を行うこと。

彼らはガイ・フォークスの仮面を着用し、特定の標的に対してDDoS攻撃(ウェブサイトを一時的にダウンさせる攻撃)、ハッキングによる機密情報の漏洩、ウェブサイトの改ざんといった破壊的・抵抗的な手段を多用します。

アノニマスの主な活動事例
  • 2008年
    サイエントロジー教会への抗議
    新興宗教団体サイエントロジー教会の宣伝動画(信者トム・クルーズ出演)が外部に流出。サイエントロジー教会は流出先であるYouTubeや関連するニュース報道に対し、削除するよう強力に要請。しかし、教会の秘密主義的体質・批判的意見を抑制する姿勢・検閲行為は、言論の自由の侵害だと反発を招き、アノニマスが集結。ウェブサイトへのDDoS攻撃、教会の内部情報の暴露を試みる、教会の施設前でガイ・フォークスの仮面をつけて物理的に抗議、などを行った。
  • 2010年
    ウィキリークス支持
    サイファーパンク主要人物の1人、ジュリアン・アサンジが創設したウィキリークスが、アメリカ外交の機密文書を公開。ウィキリークスは主に一般からの寄付で運営されていたが、アメリカ政府からの圧力が強まり、PayPal、Visa、MasterCardなどの主要な決済サービス企業がウィキリークスへの送金サービスを停止(寄付をできなくする)。この行為は言論の自由を抑制するものだと反発を招き、アノニマスは決済サービス企業へDDoS攻撃を行い、ウェブサイトを一時機能不全にし、サービスを停止させた。
  • 2011年
    アラブの春 関連活動
    チュニジアやエジプトなど、中東・北アフリカ諸国の独裁政権では、インターネット検閲や言論弾圧が行われており、国民の自由が侵害されていた。それに対し、アノニマスは政府のウェブサイトにDDoS攻撃を行ったり、国民に政府の検閲を回避してネット接続する方法を教えたり、国外にデモ情報を発信して国際社会の目を向けさせるなどし、反政府デモを支援した。
  • 2012年
    著作権法改正への抗議
    日本で違法ダウンロードの刑事罰化を含む著作権法改正案が可決。アノニマスは、この裏にもっと大きな問題が隠れていると抗議。インターネットは本来、情報が自由に流通する場であるべきと考えており、違法ダウンロードの刑事罰化は、政府が国民のオンライン活動を監視し、行動を制限するための第一歩であり、「検閲」につながる恐れがあると考えた。また、刑事罰化によってプロバイダに対する利用者情報の開示請求が容易になると、個人のインターネット利用履歴が当局に監視される可能性や、プライバシー侵害への懸念が高まる。

アノニマスの最大の特徴は、「集団としての匿名性」。個々の参加者は誰であるかを知られず、共通の理念や目標のもとに一時的に連携し、行動が終われば解散します。

サイファーパンク:コードで自由を築く思想家たち

サイファーパンクの多くは、その活動を本名や公知のペンネームで行っていました。

そして、技術を通じて誰もが匿名性やプライバシーを享受できるシステムを「構築する」ことに重きを置いています。

 

  • サイファーパンクは「自由を守るための技術をつくる人たち」
  • アノニマスは「自由を訴えるためにシステムを壊す人たち」

という立場の違いがあります。

どちらも現代のネット社会を語るうえで重要な存在ですが、目指すアプローチはまったく別物だと言えるでしょう。

中央管理者のいないオンライン通貨システムへの挑戦

サイファーパンクの理想を実現するための究極の目標の一つが、中央管理者(政府や銀行)に依存しない、匿名性の高いデジタル通貨でした。ビットコインが生まれる前にも、数々の先駆者たちがこの夢に挑んできました。

デヴィッド・チャウムのeCash

デヴィッド・チャウムはアメリカのコンピューター科学者で暗号学者です。「暗号通貨のゴッドファーザー」とも呼ばれ、ビットコインのホワイトペーパーにも引用された「ブラインド署名(Blind Signatures)」の概念を1982年の論文で発表しました。

彼はデジタル時代における個人のプライバシー保護の重要性を早くから認識し、その手段として暗号技術を用いた電子マネーの実現を目指しました。

 

eCashは、チャウムが設立した会社DigiCash(デジキャッシュ)によって1990年代に実装されました。その核心にあったのは、彼が発明したブラインド署名という暗号技術です。

従来のデジタル決済では、銀行や決済プロバイダーが「誰が、いつ、どこで、いくら使ったか」を完全に把握できますが、eCashはこの監視をなくし、物理的な現金のように「匿名性」と「追跡不可能性」を実現しようとしました。

 

eCashの仕組み

  1. デジタルコインの生成(ユーザー側):ユーザーは、自分のコンピューター上で、特定の額面を持つデジタルコインを生成します。この際、コインの情報(シリアル番号など)は、ユーザーのデバイス上で暗号技術によって「ブラインド(目隠し)」されます。
  2. ブラインド署名による銀行からの承認(銀行側):ブラインドされたコインの情報は、ユーザーの銀行に送られます。銀行は、コインの額面を確認し、ユーザーの口座からその金額を差し引きます。その後、銀行は、コインの中身を見ることができないまま、そのコインにデジタル署名(ブラインド署名)を施してユーザーに返します。銀行は、署名したコインが後でどの取引に使われるかを知ることができません。
  3. 匿名での支払い(ユーザーから店舗へ):ユーザーは、ブラインド署名されたデジタルコインを「アンブラインド(目隠しを外す)」します。このアンブラインドのプロセスは、銀行が署名する前と後でコインの識別情報(シリアル番号)が変わらないように設計されています。ユーザーは、このデジタルコインをeCashを受け入れている店舗に支払います。この際、ユーザーの身元や過去の取引履歴は店舗には伝わりません。
  4. 店舗から銀行への送金確認(店舗側):店舗は、受け取ったデジタルコインを銀行に送金し、それが有効なコインであることを確認してもらい、自身の口座に入金します。銀行は、入金されたコインが「過去にどのユーザーによって引き出されたか」を特定できません。この「銀行はコインの中身を見ずに署名し、ユーザーは匿名で支払い、銀行もどのユーザーが使ったかを追跡できない」という点が、eCashの最大の革新でした。

 

DigiCashは、実際に米国のマーク・トゥエイン銀行(Mark Twain Bank)と提携し、1995年から1998年にかけてeCashの試験運用を行いました。一部の企業や個人がこのシステムを利用しましたが、広く普及することはありませんでした。

 

eCashは画期的な技術でしたが、残念ながら商業的な成功には至らず、DigiCashは1998年に破産を申請しました。失敗の原因は何だったのでしょうか↓

  • 時期尚早だった(タイミングの問題):1990年代は、インターネットがまだ広く普及し始めたばかりの黎明期でした。ブロードバンド接続も一般的ではなく、オンラインでの決済ニーズも現在ほど高くありませんでした。多くの人々は、オンラインでの匿名決済の重要性や必要性を理解しておらず、既存のクレジットカードや銀行振込といった方法に慣れていました。まだインターネットのインフラやユーザーの意識が、eCashのような先進的な技術を受け入れる準備ができていませんでした。
  • 中央集権的な設計:eCashは、その匿名性に関わらず、ビットコインのような分散型システムではありませんでした。デジタルコインの発行や署名には、DigiCashという中央の機関(または提携銀行)が必要でした。これは、ユーザーが最終的にその中央機関を信頼しなければならないことを意味し、中央機関の倒産や不正のリスクが残っていました。
  • 複雑なユーザーエクスペリエンス:当時は、eCashを利用するためのソフトウェアのインストールや設定が、一般のユーザーにとっては複雑でハードルが高かったと言われています。デジタルウォレットの安全性やバックアップに関する知識も必要でしたが、当時のユーザーにはそれが不足していました。
  • 銀行の協力体制の不足:匿名性の高いeCashは、マネーロンダリングなどの違法行為に利用される可能性を金融機関や政府は警戒しました。銀行にとって、顧客の取引を完全に追跡できないシステムは、規制遵守やリスク管理の観点から受け入れがたく、積極的な導入には繋がりませんでした。

 

eCashは商業的には失敗しましたが、その思想と技術は後世に多大な影響を与えました。特にブラインド署名という概念は、その後の多くの暗号通貨やプライバシー技術の研究に影響を与えました。

アダム・バックのHashcash

アダム・バックは、1990年代から活動しているサイファーパンク(暗号技術やプライバシーを重視する運動家)の一人です。

彼は、匿名性の高いデジタルキャッシュや暗号技術の研究に深く関わってきました。ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトも、ビットコインのホワイトペーパーでHashcashを引用しており、サトシがビットコインを発表する前にアダム・バックとメールでやり取りをしていたことでも知られています。

 

Hashcashは、1997年にバックによって考案され、2002年に論文として発表されました。当初の主な目的は、スパムメール対策でした。

  • スパムメールの問題点:スパムメールは、送信者が非常に低コストで大量のメールを送れるため、受け手側にとっては大きな負担となります。このコストの非対称性が問題でした。
  • Hashcashの解決策(プルーフ・オブ・ワークの概念):Hashcashは、メール送信者に対して、メールを送信する前にごくわずかな計算作業(ワーク)を実行させることを要求します。この計算は、人間にとっては手間がかからない程度ですが、大量のメールを自動で送信しようとするスパマーにとっては無視できないコストとなるように設計されています。

 

Hashcashの仕組み

  1. 「ハッシュスタンプ」の生成:メール送信者は、メールの内容・送る相手のアドレス・現在の日時と、ランダムな数値(ナンス)をセットにし、ハッシュ関数(例: SHA-1など)というルールで、数字のような変なコード(ハッシュ値)を作ります。しかし、ハッシュ値はなんでもいいわけではありません。「先頭に0が〇個ついた数字を作ってね」という条件があります(『00000529633』みたいな感じ)。この条件を満たすハッシュ値を見つけるには、ランダムな数値(ナンス)を何度も変更して計算する必要があります。この試行錯誤のプロセスが「ワーク(仕事)」であり、その「ワークの証明」が「プルーフ・オブ・ワーク」と呼ばれています。
  2. 計算の難易度調整:この計算の難易度(例: 先頭のゼロの数)は調整可能で、送信者にとっては数秒程度の計算で済むように設定されます。
  3. 受信者による検証:受信者は、送られてきたメールに添付されたハッシュスタンプ(計算結果)が正しいものか、ごく短時間で簡単に検証できます。
    検証が成功すれば、そのメールは「正当な労力を払って送られたもの」と判断し、スパムでない可能性が高いと見なされます。逆に、ハッシュスタンプがなければスパムとして扱われます。

このようにして、Hashcashは「送信側にわずかな計算コスト(コンピュータの計算には電気代がかかる)を課すことで、悪用(スパム)のコストを上げ、正規の利用を妨げない」というメカニズムを実現しました。

 

ビットコインにおけるHashcashの重要性

アダム・バックのHashcashがビットコインにとって革命的だったのは、この「プルーフ・オブ・ワーク」の概念が、ビットコインのマイニング(採掘)とコンセンサスアルゴリズム(取引の正当性を検証し、参加者間で合意を形成するためのルール)の基礎となった点です。

  • マイニング(Proof of Work):ビットコインのマイナーは、新しいブロック(取引記録のまとまり)をブロックチェーンに追加するために、Hashcashと同様に、非常に計算コストのかかる「ナンス探し」を行う。正しいナンスを見つけ、特定の条件を満たすハッシュ値を生成することに成功したマイナーが、新しいブロックを追加する権利を得る(これにより新しく発行されるビットコインを報酬としてもらえる)。このプロセスは、Hashcashがスパム対策で用いた「計算によって正当な労力を証明する」という概念そのもの。
  • 分散型ネットワークの維持とセキュリティ:ビットコインでは、このPoWによって誰かが不正な取引を承認したり、過去の取引記録を改ざんしたりするためには、ネットワーク全体の計算能力の過半数(51%)を支配する膨大な計算資源(マシン)と電力が必要となる。これは事実上不可能であり、ビットコインネットワークのセキュリティと分散性を保証している。
  • また、PoWは新しいビットコインの発行ペースを調整し、デジタル通貨の供給量を管理する役割も果たしている。

このHashcashのアイデアなしには、サトシ・ナカモトが分散型で安全なビットコインを設計することは非常に困難だったでしょう。

ウェイ・ダイのb-money

ウェイ・ダイは、コンピューター科学者であり暗号学者です。

彼はサイファーパンク運動の重要なメンバーの一人であり、プライバシーと暗号技術の分野で多大な貢献をしました。彼のb-moneyに関する研究は、後のビットコインの設計に大きな影響を与えたことで知られています。

 

b-moneyは、中央機関に頼らず、ユーザー間のP2P(ピア・ツー・ピア)ネットワーク上で機能する匿名性の高い電子キャッシュシステムを目指しました。

※P2P:中央のサーバーに依存せずに端末(ピア)同士が、対等な関係で直接データをやり取りするシステム

これは、政府や銀行による管理や監視から自由な、真に個人の手に委ねられたデジタル通貨を実現しようとするサイファーパンクの思想を反映しています。

 

b-moneyの仕組み(二つのプロトコル)

ウェイ・ダイは、b-moneyの論文で二つの異なるプロトコルを提案しました。どちらも完全に実装されることはありませんでしたが、そのアイデアは後のブロックチェーン技術に影響を与えました。

プロトコル1:半匿名性の中央協調型(このプロトコルはまだ、ある程度の信頼できる要素を必要とした)

  1. 匿名グループの形成:各参加者は、匿名かつ追跡不可能な擬名(匿名ハンドル)でグループに参加。
  2. 資金の移動:参加者は資金をやり取りする際に、送金先と金額を公表する。
  3. 匿名預金と引き出し:各参加者は、匿名な「デジタル口座」を保有する。この口座への預金と引き出しは匿名で行われる。
  4. 検証者の存在(限定的):資金の移動や残高の検証は、選ばれた少数または全ての参加者によって行われる。しかし、このプロトコルは二重支払いを防ぐための明確なメカニズムに欠けていた。

 

プロトコル2:完全に分散型(このプロトコルの方が、ビットコインに近い概念を含んでいた)

  1. 参加者の計算能力の証明(プルーフ・オブ・ワークの初期形態):各参加者は、一定量の計算作業(プルーフ・オブ・ワーク)を行うことで、システムへの参加を証明する。これはアダム・バックのHashcashの概念と類似。この計算作業を通じて、通貨の生成や取引の承認に参加できる権利を得る。
  2. 取引のブロードキャストと記録:参加者は、取引(送金)を行う際に、その取引をネットワーク全体に送信(ブロードキャスト)する。他の参加者は、その取引を検証し、自分たちのデータベースに記録する。
  3. 二重支払い(ダブルスペンド)の防止:二重支払いを防ぐために、各参加者は他のすべての参加者のアカウント残高を追跡し、有効な取引のみを承認。もし二重支払いが行われた場合、ネットワーク内で最初にブロードキャストされた有効な取引のみが承認され、後の取引は拒否される。
  4. 紛争解決:何らかの紛争(例えば、ある参加者が誤って二重支払いを主張した場合など)が発生した場合、ネットワーク参加者間で投票によって解決される。これは、ビットコインの「最長のブロックチェーンが正しい」というコンセンサスルールに似た、分散型の合意形成の試み。

 

b-moneyは非常に革新的なアイデアでしたが、実際に動作するシステムとして構築されることはありませんでした。主な理由は以下の通り。

  • スケーラビリティとパフォーマンスの課題:プロトコル2のように、すべての参加者が全ての取引を追跡し、データベースを維持するという仕組みは、ネットワークが大きくなるにつれて途方もない計算資源とストレージが必要になる。これは、当時の技術では現実的ではなかった。また、ネットワーク参加者間の同期をどのように効率的に行うかという問題も未解決だった。
  • 二重支払い問題の不完全な解決:プロトコル2では二重支払い防止のメカニズムを試みたが、ネットワークの規模が大きくなると、情報伝達の遅延などにより、複数の有効なブロックが同時に生成される「フォーク(分岐)」が発生する可能性があり、その解決策が明確ではなかった。ビットコインは「最長のブロックチェーン」ルールでこの問題を解決したが、b-moneyはその点について詳細なメカニズムを提示していなかった。
  • 具体的な実装の欠如:論文の段階で、概念は提示されたが、実際のコードや詳細なプロトコルの実装までは至らなかった。

 

ビットコインへの影響

b-moneyは実装には至らなかったものの、ビットコインに多大な影響を与えました。

  • 分散型の性質:中央機関なしに機能するという思想
  • 匿名性への志向:プライバシーを重視する点
  • プルーフ・オブ・ワークの利用:通貨の生成や不正防止に計算能力を用いる概念
  • 分散型台帳の維持:全ての参加者が取引記録を共有し、検証するというアイデア

実際に、サトシ・ナカモトは、ビットコインのホワイトペーパーの参考文献としてウェイ・ダイのb-moneyを引用しています。

“We shall refer to the concepts of Wei Dai’s b-money…”

(ウェイ・ダイのb-moneyを参照する)

ニック・サボのBit Gold

ニック・サボは、アメリカのコンピューター科学者、法学者、暗号学者です。

彼は、スマートコントラクトの概念を1990年代に初めて提唱した人物としても知られています。サイファーパンク運動の主要メンバーの一人であり、デヴィッド・チャウムのDigiCashで働いた経験もあります。

その思想と技術的提案は、ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトに強い影響を与えたと広く認識されており、一部ではサトシ・ナカモトの正体ではないかとも噂されていますが、本人は否定しています。

 

Bit Goldの目的と背景

ニック・サボは、デジタル空間で機能する「真の希少性」を持つデジタル通貨の必要性を認識していました。彼は、金(ゴールド)が物理的な希少性と高価な採掘コストによって価値を持つように、デジタル世界でも同様の特性を持つ「デジタルゴールド」を創り出すことを目指しました。

彼がb-moneyやeCashの限界を認識していたことは明らかで、特に中央機関に依存しない、より分散型のシステムを追求しました。

 

Bit Goldの仕組み(概念)

Bit Goldは2000年代初頭に構想されましたが、実際に動作するシステムとしては構築されませんでした。しかし、その設計思想は驚くほどビットコインに類似しています。

  1. プルーフ・オブ・ワーク(PoW)による生成:ユーザーは、Hashcashと同様に、計算コストの高いプルーフ・オブ・ワーク問題を解くことで「Bit Gold」を生成(計算で生成されたハッシュ値と呼ばれるものがBit Goldそのもの)。これは、アダム・バックのHashcashの概念をデジタル通貨の生成に適用したもの。この計算作業は、金採掘のようなエネルギー消費を伴う「労働」と見なされ、その労力がデジタル通貨の価値の源泉となると考えられた。
  2. 分散型台帳(公開鍵暗号による記録):生成されたBit Goldは、秘密鍵を使ってデジタル署名され、その所有者情報とともにタイムスタンプサーバーに送られ、記録される。この「ハッシュ値(Bit Gold)と、誰が、いつ生成したか」の記録は、複数のタイムスタンプサーバーによって維持され、公開された分散型台帳のような役割を果たす。これにより、二重支払い(ダブルスペンド)を防ぎ、取引の順序を確定させようとした。
  3. 非中央集権的な検証:ユーザーがBit Goldを消費(送金)する際には、その所有権を新しい所有者に移転するための署名を秘密鍵を使って行い、ネットワークにブロードキャストする。他の参加者(サーバー運営者)は、この取引を公開鍵を使って検証し、台帳に記録。中央銀行や単一の信頼できる第三者機関を介さずに、ネットワーク参加者間の合意によって取引の正当性を確認する仕組みを目指した。ただし、改ざんや不正は自動で指摘されるわけではなく、第三者が目視・手動検証で確認する必要がある(ビットコインはネットワーク全体で自動検証)。
  4. 「価値の保存」としての機能:Bit Goldはビットコインと違い、個々がPoWでBit Goldを生成していく。また、発行上限も決められていなかった。しかし、PoWの難易度(計算コスト)を調整することで、デジタル通貨の供給ペースをコントロールするアイデアを持っていた。金のように「供給量がだんだんと限定され、採掘にコストがかかる」という特性を持つことで、インフレに強く、価値の保存手段としての機能を持つことを意図していた。

 

Bit Goldが実装されなかった理由

Bit Goldはビットコインに非常に近い概念でしたが、実際に動作するシステムとして世に出ることはありませんでした。主な理由としては、以下の点が挙げられます。

  • 完全な分散合意の難しさ:分散型ネットワークで「二重支払い」を完全に防ぎ、すべての参加者が共通の正しい記録を維持するための、堅牢で効率的なコンセンサスアルゴリズムの確立が十分ではなかったと考えられます。特に、ビットコインの「最長のチェーンが正しい」という明確なルールや、それに対応するネットワークインセンティブ(マイニング報酬)がBit Goldには欠けていました。
  • 具体的な実装の欠如:概念の提示に留まり、実際に動作するコードや詳細なプロトコルの実装までは至りませんでした。
  • 参加者のインセンティブ不足:Bit Goldのシステムを維持し、プルーフ・オブ・ワークを実行する参加者に対する具体的な経済的インセンティブ(報酬)の設計が、ビットコインほど明確ではなかった可能性があります。

 

ビットコインへの影響

ニック・サボのBit Goldは、ビットコインの設計に極めて大きな影響を与えました。サトシ・ナカモトがビットコインのホワイトペーパーでBit Goldに直接言及していないものの(ただし、間接的にサボの仕事には触れているという解釈もある)、その類似性は驚くべきものです。

特に、以下の点でBit Goldはビットコインの直接的な先駆けと見なされています。

  • プルーフ・オブ・ワークの利用:価値を生成し、取引を検証するための計算証明の採用。
  • 分散型タイムスタンプ:取引の順序を確定し、二重支払いを防ぐための公開された記録メカニズム。
  • 希少性に基づく価値:デジタル的に希少性を創出し、インフレに強いデジタルゴールドを目指す思想。
  • 中央機関の排除:信頼できる第三者を必要としない、P2Pの電子キャッシュシステム。

Bit Goldは、中央銀行や政府に依存しないデジタル通貨の理想を、技術的な側面から深く掘り下げたものであり、まさにビットコインの誕生へ向けた最終段階の布石となった画期的なアイデアでした。

ビットコイン誕生:革命の幕開け

そして2008年、世界は未曾有の金融危機に直面しました(リーマンショック)。銀行は次々と破綻し、政府による救済措置は、多くの人々に既存の金融システムへの不信感を募らせました。

  • 金融危機は、主に銀行がリスクの高い投資(住宅ローンの貸しすぎなど)を繰り返した結果、最終的に破綻寸前になったことが原因
  • 破綻寸前の巨大銀行を救うため、政府は国民が納めた巨額の税金(公的資金)を投入。「自分たちだって生活は苦しいのに、なぜ問題を起こした銀行を、自分たちの税金で助けなければならないのか?」
  • これだけの混乱を引き起こしたのに、誰も責任を取らない(経営者、責任者、監督責任のある政府)

 

その最中、匿名の人物(またはグループ)であるサトシ・ナカモトが、インターネット上のメーリングリストに一つの論文を発表します。

それが「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」でした。

そして2009年1月3日、彼は最初のブロック(ジェネシスブロック)を生成し、そこに

「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks.」

(タイムズ紙 2009年1月3日 銀行に対する2度目の救済措置の瀬戸際にある財務大臣)

というメッセージを刻みました。

 

このメッセージは、既存の金融システムへの痛烈な批判であり、ビットコインが目指す「中央の管理者なしに、個人間で直接、安全にやり取りできるお金」という新しい世界への扉を開く、まさに革命の狼煙でした。

初期マイナーたちの活躍:無名の英雄たちが動かしたネットワーク

ビットコインが誕生した当初、その価値はほぼゼロでした。それでも、一部のサイファーパンクや開発者たちは、サトシ・ナカモトの思想に共鳴し、自身のコンピューターを使ってマイニング(採掘)を始めました。

彼らが文字通り電力を消費し、時間を費やしてブロックを生成し続けたからこそ、ビットコインのネットワークは動き出し、成長できたのです。

 

その中でも最も有名なのが、暗号学者ハル・フィニーです。

彼はビットコインのソフトウェアが公開されるとすぐにダウンロードして実行し、サトシ・ナカモトと直接連絡を取り合いました。そして2009年1月12日、サトシからテストとして10BTCを受け取りました。

これは、ビットコイン史上初のP2P取引であり、彼が「ビットコインを受け取った最初の人物」として歴史に名を刻む瞬間でした。

 

ALSという難病と闘いながらも、フィニーはビットコインの可能性を信じ続け、2014年に亡くなるまでその発展に貢献しました。彼のような無名の(しかし情熱的な)英雄たちの地道な努力がなければ、ビットコインは今日まで存続することはなかったでしょう。

ビットコインの成長と功績:止まらない革命

誕生から15年以上が経過した今、ビットコインは単なる「実験」を超え、世界中で認知されるデジタル資産となりました。

その成長と功績は計り知れません。

  • 一度も停止しないシステム:これまでビットコインのネットワークは一度も停止したことがありません。これは、分散型の構造と、世界中のマイナーが維持する強固なセキュリティの証です。
  • 強靭な耐性:数々のハッキング、市場の暴落、FUD(恐怖・不確実性・疑念)を乗り越え、そのたびに強固さを増してきました。
  • 新しい金融システムの礎:ビットコインは、DeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)といった、ブロックチェーンを活用した多様なイノベーションの基盤となりました。
  • 機関投資家の参入:マイクロストラテジーのような上場企業が巨額のビットコインを財務に組み入れ、ビットコイン現物ETFが承認されるなど、伝統的な金融システムからの信頼も着実に高まっています。
  • 「デジタルゴールド」としての地位:インフレヘッジや価値の保存手段として「デジタルゴールド」の地位を確立しつつあります。

ビットコインは、私たちに金融の自由とプライバシーを取り戻す可能性を示し、情報化社会における権力のあり方に一石を投じました。

 

その「革命物語」は、今も新たなページが書き加えられ続けています。